19世紀半ばまでは、スイスの中央アルプスの渓谷には、ウンターアール氷河がどっしりと流れ込んできていました。しかし、その後、気温が上昇するにつれ、どんどんと標高の高いところへと後退し、現在では2km以上も消滅してしまい、かつて氷河があったところは、侵食された黒い崖が寂しそうにその素肌を現しています。
また、アメリカのモンタナ州グレイシャー国立公園では、1910年には推定150の氷河がありましたが、現在では30足らずに減少し、しかも、その大半は面積が3分の2ほどに縮小しています。その中で今でも残る氷河の一つ、スベリー氷河は3分の1以下に減少しています。本来なら何十万年もかけて徐々に進行する変化が、わずか何十年という短い時間で起きており、近いうちに、グレイシャー(氷河)国立公園は、名ばかりになるのではないかと心配されています。
同じくアメリカのアラスカ州デナリ国立公園のバックスキン氷河も消えつつあり、毎年、推定940億立方メートルの水が海に流れ出していて、これは地球上で最大の規模の融解といわれています。
これ以外にも、アフリカの赤道直下のキリマンジャロの万年雪は80%以上が解け、インドのガルワル・ヒマラヤ氷河も急速に後退しており、南米ペルーのケルカヤ氷冠では毎年200m近く後退しているところもあるなど、世界各地の氷河で異変が起きています。
高緯度地域においても、グリーンランドの氷床が融解を始めているほか、北極圏では1年を通じて氷が浮かんでいる海域が、10年で9%の割合で狭くなってきています。また、2002年には、南極の3,240平方キロメートルもあるラルセン棚氷が大崩壊し、氷河をせき止めるダムの役目をしていた棚氷の崩壊は今後どのような影響が出るのかが心配されています。(NATIONAL GEOGRAPHIC 2004.9)
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